今日は春分の日、お彼岸のお中日である。実は、最近「世界遺産」について講義をする場合、メキシコのチチェィン・イッツァの遺跡の精巧な仕掛けとこだわりについて触れることが多い。ユカタン半島にあるマヤ文明の遺跡に天文学知識を見事に採り入れた逸話について話をするのである。角錐形をした90段の正面階段の手すりを「ククルカン」という最高神の蛇が降りてくる影が見られるのが何と1年に2度のお彼岸のお中日なのである。巧妙に細工されたチチェィン・イッツァの遺跡は、天文学を精緻に駆使した古代マヤ人の面目躍如たるところである。生憎お彼岸当日に現場に居合わせたことがないので、実際にククルカンの蛇が降りてくるのを見たことはないが、写真をスクリーンに映しながらその神秘的なストーリーを話すだけで、受講者は感嘆し驚く。
さて、今日3月20日は、2003年にイラク戦争が始まってちょうど10年になる。先月だけで200人以上の死者が出たくらい治安は安定せず、戦争が終わったとはとても言える状態ではなく、昨日も今日も散発的なテロで死傷者が出ている。そのうえイスラム宗派間、民族間にも激しい対立を呼んでいる。
元々イラク戦争は、アメリカのブッシュ政権が当時のフセイン・イラク大統領が大量破壊兵器を開発していることと、イラクが国際テロ組織アルカイダと密約していることを理由に空爆を開始して始まったものだ。その後イラクに大量破壊兵器とアルカイダとの密約の証拠は見つからず、アメリカの戦争介入の正当性はなくなった。当時わが国でも小泉首相が英米両国から支持を求められ、これを了承し復興支援部隊を派遣して後方支援に当った。その時官房長官だった福田康夫元首相が、朝日新聞にアメリカの攻撃を支持した背景を語っている。
しかし、アメリカにとってイラク戦争による物心両面での負担は深刻である。一昨年末地上部隊は撤退したとは言え、12万人以上のイラク国民を犠牲にし、5000人近くの自国軍兵士を死に至らしめ、アメリカにとっても財政的に1.7兆㌦(161兆円)の戦費を注ぎ込み、負傷兵に対する将来の補償費などを加えると実に6兆㌦(568兆円)という途方もない経費がかかる。この戦費がアメリカ政府にとって巨額の財政赤字を生んで、アメリカが新たな戦争に踏み込む決断を鈍らせているのだ。それが、在日米軍駐留経費の日本政府の肩代わり負担という問題にもなっている。
それだけ大きなイラク戦争の災い、その原因や歴史について、NHK、テレビ朝日などテレビ局は取り上げているが、朝日以外に新聞が取り上げていないことがまったく理解できない。
実は、10年前の今日はシベリア鉄道の旅を終えモスクワからウラジオストック空港まで戻ってきてトランジットルームで新潟行きのフライトを待っていた時、偶々テレビで開戦を知ったのである。アメリカはやっぱりやったかというのが、その時の偽らざる気持ちだった。新潟市内の路上で地元のテレビ局からインタビューされたこともぼんやり思い出される。それは世界中の人々の耳目を集めた衝撃的なニュースだった。それが、10年も経つとマス・メディアにとっては色褪せてこの無反応ぶりである。忘れっぽい日本人気質と呼ぶべきか、或いはいつまでも平和ボケの日本人と言うべきだろうか。新聞社のあまりにも鈍い感度に呆れている。
ことの序と言っては御幣があるが、18年前の今日も悪夢の一日だった。地下鉄サリン事件が発生した日から18年である。