パリ祭の今日、間もなく7周忌を迎える小田実さんを偲ぶ映画会と座談会が岩波セミナールームで開かれた。その映画とは、小中陽太郎さんがNHK名古屋支局時代の1962年に小田さんの脚本を演出した「しょうちゅうとゴム」と題する奇妙奇天烈なドラマで、日本の高度経済成長、四日市公害問題にからませて百姓が土地を売り、企業は下請けを使って潤う社会の矛盾をついたようなテーマだった。私はこれまでに2回観ている。最初観たのは、6年前の4月で小田さんが亡くなる3ヶ月前だった。その時小中さんが小田さんの余命は幾許もないと沈痛な顔で話されたことが記憶に残っている。
しかし、天下のNHKがよくもこういう自由奔放で、ちょっと意味が分らないような作品を若手ディレクターに任せたものだとか、ハチャメチャな作品だとか、漫画を上手く取り入れているとか、とにかく今ではとてもこれに似た作品は作れまいという声が強かった。
小中さんが演出した当時は、テレビの録画技術がなく、作品はすべて生放送で、作品がそのまま記録として残されることはなかった。それが幸いに残っていたのは、偶々和田勉さんがキネコとして、映像を撮ってくれたおかげだそうで、それをNHKを辞める時小中さんが持ち出したままになった幸運によるものだそうである。まったく何が幸いするか分らない。
そのおかげで今我々が、60年安保闘争直後の時代の空気と世相を動画として知ることができる。
前座で話された作家四万田犬彦氏、音楽を担当された高橋悠治氏、大島渚監督の二男・新氏のトークも中々面白かった。大島新氏がこの作品が作られた時、小田さんはどれほど名を知られ、存在感があったのかと質問したのには、時代性を感じた。同じようにテレビ番組を作っている新氏は、現代は制作に制約が多いと小中さんが作った時代を羨んでいた。新氏は湘南高校の30年ほど後輩に当る世代なので、昔の自由な時代を羨むのも無理ない。
何度観てもわかりにくい映画であるが、時代性を感じさせてくれる。なかなか面白い映画だった。
終わってから「山の上ホテル」でパリ祭に因んだワイン会があり、ペンの知人とも久しぶりに世間話で寛いだ。