オバマ旋風が日本列島を駆け抜けていった。総じてオバマ大統領の広島訪問とその言動は好意的に受け止められている。被爆者代表の坪井直・原水爆被害者団体協議会(日本被団協)代表委員は大統領と言葉を交わし、握手をして核廃絶に向かってともに戦いましょうとまで話していた。原爆投下命令を出した時のアメリカのハリー・トルーマン大統領の孫クリフトン・トルーマン・ダニエル氏も大統領のスピーチを「言うべきことを言った。期待通りだった」と高く評価していた。
大統領のスピーチの言葉に、「私たちはなぜ広島を訪れるのか。私たちはそう遠くない過去に解き放たれた恐ろしい力に思いをはせるために訪れるのです。10万人を超す日本人の男女、そして子どもたち、何千人もの朝鮮人、十数人のアメリカ人捕虜を含む死者を悼むために訪れるのです」。この「何千人もの朝鮮人」というフレーズを取り上げ、韓国政府は「韓国人犠牲者をアメリカ、日本の犠牲者たちと同等な立場で明確に言及したことは意味がある」と事前には批判的だったが、事後は納得したように思える談話を発表した。
相変わらず反日的言動の強い中国は、公式に「南京事件を忘れてはならない。加害者は永遠にその責任から逃れることはできない」と厳しく述べて「世界で最も多くの核兵器を有するアメリカが核なき世界を呼びかけるのはナンセンス」と論評している。そうだろうか。多く有している国が発言するからより効果的なのではないだろうか。ところが、実は核兵器を最も多く所有しているのはアメリカではなくロシアであり、その一方で昨年核弾頭保有数が核保有国の中で唯一前年より増えたのが中国である。こうした非核化へ歩もうとしている時に逆行するように核兵器を増やし、自分たちには不利な事実には目をつぶり、相変わらず言いたい放題なのは中国らしいと言えば中国らしいコメントである。
日本ではほぼ好意的な声が溢れているが、参考までに32歳の若い歴史社会学者、山本昭宏・神戸市外国大学准教授の幾分批判的な声を掲げたのも、リベラルぶった上から目線の朝日新聞らしい。その取材の発言要旨を取り上げておきたい。
山本氏は「被爆者がアメリカに恨みを抱くのはごく自然で、歓迎一色で反発や怒りが出てこなかったのが不思議である」と語り、大江健三郎や岡本太郎の言葉を引用し「われわれ自身が被爆者なのだ」と言い、戦後から50年代まで感情が表出せず、70年代になって「平和」の美名のもとに国民が取り込まれているとも述べている。今回の大統領訪問ではセレモニーだけでなく、現実に謝罪を求めるか、投下したことをどう思うかと問うべきで、原爆慰霊碑に献花したことで原爆問題は解決したとのイメージづくりに利用されてはならない、等々なるほどと納得することは少なからずある。しかし、失礼ながら山本氏の意見は察するに、まだ人生経験が足りず現場を知らず、取材が不十分に思われる。現実には非核化が叫ばれながら、未だにスタート地点にも立てないのは難問には山あり谷ありが当たり前で、事は一気に解決しないということを知るべきである。若い学者にはもっと漸進主義というものを知ってほしいと思う。