2333.2013年10月2日(水) 沖縄の陽の当らない闘い

 沖縄に「ベトナム村」という特殊な「村」があったことを初めて知った。それも長崎オランダ村のような賑わいの観光地ではなく、何とベトナム戦争中アメリカ軍がベトナムの部落襲撃作戦の訓練の場として、沖縄・東村高江地区にベトナムの村に見立てて作った人工の村である。沖縄県民をベトナム人に変装させて実戦まがいの訓練を行い、それを当時のワトソン高等弁務官らが見学までしていた。さらに驚いたのは、ベトナムで奇形児を生んで大きな問題となった枯葉剤の散布までやっていた。どれほど枯葉剤による犠牲者がいたのか知る由もないが、この散布に関わった米兵が今も後遺症に悩まされている。沖縄住民を狩り出し、こんな野蛮な手伝いをさせてベトナム戦争に協力させていたとはあまりにも沖縄の住民を愚弄している。寡聞にしてまったく知らなかったが、復帰前の沖縄住民はこんな残酷な舞台回しもさせられていたということである。

 今日駒沢大学公開講座で清田義昭講師が鑑賞させてくれた琉球朝日放送制作の「標的の村」と題する秀逸なビデオを観て、「ベトナム村」の存在を知り愕然とした。昨年JCS(日本映画撮影監督協会)特別賞を受賞した番組である。いま問題になっているオスプレイの離着陸用サイトを造成するため、その「ベトナム村」があった高江地区周辺を取り巻く農村地帯で、3箇所のヘリパッド新築工事中に沖縄防衛局及び警察と、これを阻止しようとする地元住民の間で激しい攻防が繰り広げられた。防衛省は建設の主旨など詳しい説明は一切せず、一方的に米軍の方針を住民に伝え、工事を強行するばかりである。住民無視でそこにはまったくガバナンスが感じられない。住民には国や本土からほとんど支援がなく、地域住民が生活を賭けて必死になって闘っている。

 この闘争の始まる前の2007年防衛省が工事に反対する住民を相手に、高圧的な訴訟を起こしたことにも驚いた。SLAPP裁判と称する弱者を痛めつける訴訟で、「威圧訴訟」とも「恫喝訴訟」とも呼ばれる。こんな民主主義に反する裁判があること自体驚きである。日本ではほとんど前例がないと思うが、アメリカでは度々権力者が自分たちに反対する勢力を法的に押さえつけるため、力のある権力者が弱者を相手に起こす‘Strategic Lawsuit Against Public Participation’と呼ばれる訴訟のことである。直訳すると「対公共関係戦略的法務」と訳される「こわ~い」訴訟なのである。このSLAPPにより高江地区の反対同盟代表者に対して通行妨害禁止命令が出された。座り込みを排除する判決である。

 この闘いを考えてみると高江地区の住民は日本人として処遇されているようにはとても思えない。工事開始に当っても説明はほとんどなく、一方的な命令に基づき座り込みは排除され、体制側に対する無力を痛感する。ただそれでも住民はひたすら反対するしかないと覚悟している。

 問題は極めて深刻である。このように為政者によって押し付けられた紛争だが、国からも、また国民からも何の支援もないという理不尽さはあまりにも酷い。実際メディアによる報道もついぞなかった。これでは国民は実情を知らされず支援のしようがない。政府・防衛省の意図によるものかどうか分らないが、こういう徹底的に弱者を痛めつける現状に知らんぷりしているのは、あまりにも人権無視であり、考え方によっては国による弱者へのいじめではないだろうか。もっと現状を知ってもらうようメディアも広く啓発すべきではないだろうか。これは国とメディアに大きな責任があると考えている。

 この作品は琉球朝日放送の力作であるが、政府にとって都合の悪いドキュメンタリー番組を沖縄以外の地域で観る機会がないことが別の問題として残る。防衛省としては、多くの国民に鑑賞されてオスプレイ反対の声が強まることが心配なのだろう。それにしてもこういう動きがつい最近のでき事だとは信じられない気持ちである。もっと目を大きく見開いて広く世界を見る気持ちがないとダメだと自戒の念に駆られる。

2013年10月2日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com