2617.2014年7月13日(日) 過去のでき事を現在の視点で判断する難しさ 

 昨日の「岬」の人気ランキングに続いて、今日は今年創立140周年を迎えた警視庁が「印象に残る事件やでき事」について募集したアンケートを取り上げてみたい。「警視庁140年の10大事件」について、本日付の「広報けいしちょう」が140年前どころか、そのほとんどが戦前の世情さえ知らないだろう現代人の印象だけでランク付けした結果を報告しているので、少し考えてみたい。

 警視庁の創立が1874(明治7)年と聞けば、「降る雪や明治は遠くなりにけり」と俳人・中村草田男が詠んだのが満州事変が勃発した1931年だったから、それより半世紀以上も遥か昔のことである。明治は確実に遠くなったその時点で、明治時代に起きたでき事なんてほとんど現代の人は意識していない。更にその前の事件とでき事については言うまでもない。1世紀以上も昔の事件について現代人が正しく判断できるとはとても思えない。況や現代人が時系列的に起きた事件発生は数知れず、それを実際に知らない現代人が過去、現在を一緒くたにして選ぶことに理不尽さと不公平感があるのはある面で無理もないことである。

 しかし、それら不条理な点を割り引いたにしても、明治以降日本国民に散々目くらましをかませ、辛苦の体験を強いた戦争が見事見落とされているのは少し問題である。自分たちは戦争の被害に遭わずに、他人事のように感じている一面があるからである。太平洋戦争などは、少なくとも上位3番以内に入るべき大事件だった。このアンケートに応募した現代人は、一体戦争を何だと思っているのだろうか。日清、日露戦争はともかくとしても、あの全国民を地獄の底へ突き落した悲惨な太平洋戦争ですら、何とアンケートの30位以内にも入っていない。日本が徹底的に破壊され、世界で初めて原爆の惨禍を被った、あの「大東亜戦争」が現代人の脳裏の片隅にも残っていないということはどういうことだろうか。これでは安倍政権が戦争に無関心な国民感情を巧妙に利用し、世論の反対を無視して「集団的自衛権」や「特定秘密保護法」を強引に閣議決定したり、法案通過させてしまうのもむべなるかなと考えざるを得ない。警視庁によるアンケートであるため、そこには恣意的な配慮があったのではないかと穿った見方さえしてしまう。

 因みに上位10位まで挙げてみよう。①オウム真理教事件、②東日本大震災、③あさま山荘事件、④三億円事件、⑤世田谷一家殺害事件、⑥日航機御巣鷹山墜落事件、⑦女子高生コンクリート詰め殺人事件(1989年)、⑧グリコ・森永事件、⑨秋葉原無差別殺傷事件、⑩吉展ちゃん誘拐殺人事件、などの10例は一通り世間を騒がせた事件である。

 あれほどのむごい犠牲者を生んだ戦争体験をともすれば忘れがちで、考えようともしない風潮の現代日本人が微かに戦争を事件として挙げたのは、何と警視庁が発足して3年後の明治10年の「西南戦争」である。明治政府が不満分子を抑え政治と治安安定のきっかけとなった内戦である。その他に多少戦争の匂いが感じられるのは、僅かに13位の2.26事件である。

 東日本大震災が2位に入った一方で、10万人の犠牲者を生んだ関東大震災が30位にも入っていない。どうも判断の基準がおかしいと考えざるを得ない。我々が学生時代に国家の死命を制するとまで思い込み、必死に反対運動を行った60年安保闘争にしてもやっと28位である。その60年安保に比べると期待されながら、今ひとつ盛り上がらなかった70年安保闘争を含めた東大安田講堂事件が25位で上位にランクされている点などを考え合わせると、その判断の根拠の軽重度合に違和感を覚える。どだい過去140年間のでき事を、2014年に生きる人々の目線で振り返ることに無理があると言わなければならない。

 結論から言えば、実際に140年間に起きた事象を充分知らず、自分たちが最近知ったことだけで判断することの根拠のずれや、臨場感を感じることなく判断することに、充分な史料や材料を準備されずにすべてを判断する不公平感と同じような不審感を感じる。つまり1年間の10大ニュースを選別するのとは違い、140年間の事件を今年になって、ある年代層が不十分な材料の下で空気感なしに判断することに無理さ加減を感じるのである。

 結局この種のアンケートはあまり意味がないということになるのではないだろうか。

2014年7月13日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com