4762.2020年5月26日(火) 丸谷才一氏のユニークな持論

 朝日記者時代に新聞協会賞を受賞した「紀宮さま婚約内定」や、「侍従長の遺言」、「天皇家の宿題」などを著して皇室関係に詳しいジャーナリストとして知られる岩井克己氏が月刊誌「選択」に毎号「皇室の風」なる宮中取材余話を連載している。その岩井氏が今5月号に作家だった故丸谷才一氏の興味深いエピソードを紹介している。それによると、原始日本語の「ア」「イ」「ウ」「オ」の母音体系に後から加わった「エ」は、概して悪意ある侮蔑的なマイナスの意味や言葉を生んだという。「エセ」「セコイ」「ヘーコラ」「ヘナヘナ」等々に見られるように、「平成」の「ヘエセエ」には、このエ列音が4つも並ぶから平成時代には縁起のいいことはなかったという丸谷氏の特異な説を紹介している。

 丸谷氏の論稿には毎度その鋭い筆法に感銘を受けていたが、岩井氏が取り上げたその丸谷氏生前の反平成のコラムには些か驚いている。

 更に丸谷氏はエスカレートして「この数十年間で最悪の名付けは平成という年号だった。不景気、大地震、戦争とろくなことがないのはこのせいかも、と思いたくなる」とまで広言している。国内には皇太子の「人格否定」発言と皇統の危機をめぐる国論分裂、大震災と原発事故、海外には同時多発テロ、戦争、リーマン・ショックなどと打ち続く凶事に、誰も丸谷氏に反論できなかったと岩井氏は書いている。これには藤森昭一・元宮内庁長官も頭を抱えていたらしい。

 中国の年号で「平」の字が上に来るものはひとつもないという。日本でも唯一の「平治」は戦乱で翌年には改元したという。

 平成の時代も上皇夫妻の能動的象徴天皇としての活動は、昭和の戦争と向き合い、内外の現場に赴き、寄り添い、人々の上に心をくだき、祈るという形での「凶事」との苦闘でもあったと上皇夫妻の行動を評価しながら書いている。

 丸谷氏は、平仮名銀行名や地名などの珍妙な名付けへも怒りに満ちたコメントをぶつけていたが、元号については「元号のせいで凶事が続くなどと言うと、縁起をかつぐみたいで滑稽かもしれない。~早速法律を手直しして改元すべきだろう。本当のことを言えば、これを機会に年号を廃止し、西暦でゆくのが一番いい」とまで主張している。

 平仮名やカタカナを固有名詞化することは個人的には私も丸谷氏の言う通り安易にやるべきではないと思っている。放っておけば、日本語が崩れていく要因であるとも思っている。流石丸谷氏である。思い付き派やムード派に対して、ある意味で一石を投じたとも言える。

2020年5月26日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com