4587.2019年12月3日(火) 珍しい古書「交際の常識」を読む。

 以前古書店で買い求めた文学博士の春山作樹・東大教授の著作「交際の常識」なる三省堂発行の文庫本を通読した。春山博士は姫路藩武家の末裔で昭和10年に他界された教育学者であるが、この文庫本は昭和12年に永澤毅一工学博士が署名して小杉某に贈ったものである。

 内容は昭和初期のエチケット、礼儀作法や言葉遣い、服装、紹介のマナー、日本と外国との交際上の違い、等々を比較しながら当時の上流階級の作法を事細かに紹介したもので、永澤教授が小杉某に参考として贈呈したものである。とにかく細かいところに手が届く説明には、今日では必ずしも納得出来るものではないが、当時はある階層の人たちにとって参考となった貴重な書物だったようだ。その証拠に昭和8年の初版発行以来、昭和12年までに版を重ねて75版も発行されている。定価は何とたったの15銭である。きっと当時のインテリ層の間では著名なベストセラーだったのではないかと推察される。

 すでに装丁は綻びて染みがついて今にもバラバラになりそうである。すべて春山教授の言う通りというわけには行かないが、それでも中身のほとんどはなるほどと改めて納得するものである。

 漱石や鴎外作品のように明治の名残を今日に伝える名作は多くの人びとに読まれているが、この作品のように昭和初期のベストセラーで、内容的に役立つ実用書であれば、何とかリバイバルとして現代の若者たちに読んでもらえる機会があれば良いのではないかと思う。

 さて、香港のデモ騒ぎで社会的にも経済的にも混乱に巻き込まれた香港で、今年度(19年4月~20年3月)の財政収支が15年ぶりに赤字になると話題の人、林鄭月娥行政長官が発表した。当初は今年度決算は黒字になると予想していたが、長引く抗議デモが影響して小売業や観光業の業績が悪化して税収が落ち込んだことが大きい。行政長官はこのほどアメリカが成立させた「香港人権・民主主義法」には中国政府と同じく内政干渉と強く反対している。同法は、すでに1992年にアメリカでアメリカの法律の下に中国政府とは別の待遇を受けるものとする考えで成立したものである。1国2制度が守られているかどうかを毎年検証することを義務づけるアメリカの法律である。

 しかし、中国政府が言うようにこれは内政干渉である誹りは免れない。むしろアメリカ政府は、香港が中国返還された時に英中両国政府が交わした「1国2制度」の協定が守られていない事実に鑑みて、イギリス政府に対してイギリスが中国政府に約束事を守らせるよう注文をつけるべきであると思う。それなら内政干渉だと言われることもあるまい。今のイギリスは、自国の頭の蠅を追うのに追われているが、どうも政治が劣化していてそこまで出来るかどうか心配である。アメリカもその点が気になったのではないだろうか。かつての覇権国家・大英帝国も今や見る影もない。

2019年12月3日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com