4300.2019年2月20日(水) ホンダ工場、イギリスから撤退

 ホンダが2021年にイギリスのスウィンドン工場を閉鎖して、ヨーロッパから撤退するという唐突なニュースが内外に大きな波紋を呼んでいる。日本国内よりむしろイギリス国内で衝撃を持って伝えられている。特にイギリスでは来月にEUから離脱することが差し迫っていることもあり、それが影響しているのではないかとメディアが伝え、イギリス政界でも、EU賛成派、離脱派がそれぞれ大きな論争になっている。離脱すれば、イギリスで生産された車をEUへ輸出すると10%の関税が課せられるうえに、アイルランドへ輸出すれば、イギリス国内用とアイルランド国内用として輸送トラックのドライバーが2人必要になり、その分経費が余計かかる。

 更に中部都市スウィンドン工場は3,500人の従業員を抱えているだけに、工場閉鎖は深刻な失業・雇用問題を派生させる。ホンダ社長は、撤退はEUからの離脱、俗にいうブレグジットとは関係なく、電気自動車(EV)への需要のシフトに伴い日本でEVへの投資に集中することと、ヨーロッパ市場の販売の伸びが見込めないことを理由として挙げている。イギリスからの撤退と同時にトルコのコジャエリ工場の生産も21年中に終了させると発表した。ここにも従業員が1,100人いる。

 今やメーカーの海外工場は、日本国内の需要のためでもあるが、イギリス・ホンダで生産された車は、EU内のみならず、北米と日本にまで輸出されている。それほど国際的な産業となっているのである。これからイギリス国内ではスウィンドンを始めとして、同じような事例がブレグジットにより生まれる可能性がある。それだけにこの問題で揺れるイギリス国内は平静を保ってもいられないようだ。メイ首相も直々にホンダの現地責任者に厳しいコメントをぶつけたと言われている。

 かつていかに外国の地で雇用を促進し、地域経済を潤す大メーカーの進出が待ち望まれているかという事実に直面したことがある。

 1985年9月のことだった。旧文部省教員海外視察団の添乗員兼通訳として西ドイツ・リューネン市、アメリカ・ペンシルヴァニア州アルツーナとともに、イギリスのスコットランドに近い東海岸の中部都市サウスシールズで教育施設を訪問した時のことである。サウスシールズでは近くに日産の工場が建設される予定だと市民の間に歓迎ムードが満ち溢れていた。3日間の学校訪問が終わった夕べ、女性市長が市庁舎で歓迎パーティを開いてくれ、市長は近々開設される日産工場を待ち望んでいると挨拶された。それほど現地の人々は日本の日産自動車工場がやってくるのを楽しみにしてくれた。今ホンダの撤退を知るにつけ、彼らの失望感を想像すると堪らなく心が痛む。

 その土地に現存する施設が不意に無くなるということは、それを利用していた人々、恩恵を受けていた人々、愛していた人々にとっては例えようもないくらい、寂しく辛いものだということを感じる。ホンダ社長のコメントでは触れていなかったが、経営者はその地域の人々に対して大きな経営責任があるということを充分認識すべきだと思う。

2019年2月20日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com