国連本部で1カ月以上に亘って開かれていた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、昨日最終文書を採択できないまま閉幕となった。この事実は核に反対する世界中のすべての人々を一時的に失望させたばかりでなく、将来の核戦争発生への懸念を増幅させたと言える。とりわけ原爆被災地の広島、長崎市民や被災者をがっかりさせた。これは基本的には核兵器保有国と非保有国との対立が原因である。数年前までは徐々に核兵器を削減して行こうとのコンセンサスが核保有国の間にもあった。
2009年4月、オバマ大統領はプラハで要旨下記のような演説を行った。
1.米国は核兵器のない世界に向けた具体的な措置を取る。
2.冷戦思考に終止符を打つため、われわれは核兵器への依存度を下げ、他国にも同調を促す。
3.何千もの核兵器は最も危険な冷戦の遺物だ。
4.米国は核兵器を使用した唯一の核保有国として行動する道義的責任がある。
5.テロリストが絶対に核兵器を入手しないようにしなければならない。4年以内に核物質の安全性を確保する新たな国際的取り組みを提案する。
オバマ大統領が軍縮から近い将来核兵器のない平和な社会を作る意欲を盛ったスピーチとして高く評価され、世界中から期待された。そしてその年ノーベル平和賞は非核世界を託してオバマ大統領に授与された。
しかし、その後の世界情勢の変化の中でイスラエルとイランの核所有、ウクライナ問題など国際的な対立要因が浮上し、核保有国もきれい事は言えなくなり、核削減については概ね後退の印象を受ける。案の定世界へ向かって将来的に核のない世界を公約したオバマ大統領のメッセージは空手形に終わった。
保有国と非保有国の対立は、中東の非核地帯化を巡る議論で紛糾した。事実上核保有国と看做されているイスラエルに、アメリカ、カナダ、イギリスなどが同調し、これに対して核兵器の非人道性を説くオーストリア、メキシコ、エジプトなどが反発したことが成果のない会議ならしめた原因である。2009年のオバマ演説時に比べて間違いなく核絶滅の道は逆戻りしていると言える。
日本はアメリカの核の傘の下に入っているため、本音は核兵器に大反対であるにも拘わらず、アメリカの立場を慮り声を大にして反対を叫ぶわけでなく中途半端な立場に終始しているようである。しかし、最終文書素案の文言に各国の指導者が広島と長崎を訪問するよう促すと書き入れることを求めたのに対して、中国が反対し結局全会一致が原則の文書からは削除されることになった。そして、妥協案として中国との協議を継続し、「核兵器の被害を受けた人や地域社会の経験を直接共有し、交流することを通して核軍縮・不拡散の教育を強化、継続する」との中途半端な文言を盛り込むことになった。
中国は先の大戦の勝者を誇大に自認し、敗者に対して徹底的に厳しく対応する。今度の会議でも、歴史上侵略者である敗者日本が被害を受けたことは当たり前で、被害者意識を持ち出して世界にアピールしようとするのはおこがましいと言わんばかりである。原爆投下は勝者、敗者を問わず悲劇であり、格別被害者にとっては辛く、等しく慰められるべきものであるとのシンパサイズが、今や核を保有し経済大国となり傲慢になった現代の中国には残念ながらまったく見られない。見られるのはどの国に対しても「俺が、俺が」の不遜な態度だけである。
さて、話題を変えて3つばかり一昨日から今日にかけてあったスポーツの興味深い結果を紹介したい。第1はMLBマイアミ・マーリンズのイチロー選手がベーブルースの通算安打数2873本を超えて米大リーグ史上42番目の最多安打記録選手になったことである。41歳である。大したものだと思う。
次に弱いチームの代名詞だった東大野球部が、法政大を延長戦の末破り5年ぶりに94連敗のワースト記録にストップをかけたことである。あわや100連敗かと心配されていた矢先である。3番手の投手として高校の後輩・宮台康平くんが投げていた。
最後は今日大相撲夏場所千秋楽で関脇照ノ富士が12勝3敗で初優勝を飾ったことである。毎場所優勝力士が横綱白鵬と決まっていたような最近の大相撲で、この夏場所も漠然と白鵬の7連覇が期待されていた。白鵬のやや意外な不調もあったが、新進気鋭の大物力士・照ノ富士が逆転優勝を飾った。23歳の若手力士・照ノ富士の登場が今後の相撲界を背負っていくものと期待されている。しかし、問題はこの照ノ富士もモンゴル出身であることである。国籍に特に拘ることもないが、ことは日本の国技とも言える相撲である。強豪力士がすべて外国人力士では笑い話にもなるまい。照ノ富士は来場所には大関昇進が期待されるが、現在の3横綱がすべてモンゴル出身であることを思うと気持ちはやや複雑である。