去る15日に日本共産党の志位和夫委員長が、安全保障関連法案を廃止するために提唱する国民連合政府が実現すれば、日米安保条約の枠組みで対応すると日本外国特派員協会の記者会見で述べた。国民連合政府の対応として凍結すると条件付きではあるが、それにしてもあまりにもショッキングなアピールである。
共産党が安保条約を一時的にも認めようとの考えには驚き以外の何物でもない。「ブルータス、お前もか」と尋ねたいほどのショックである。志位委員長の個人的見解でもなさそうだとすると、かなりの数の党員が賛成したというのだろうか。これまで「平和への道」として頑なにテーゼを守って来た、野呂栄太郎、徳田球一、野坂参三、宮本顕治氏ら党の先覚者はこの変節をどう受け止めるだろうか。そして党是はどうなるのか。とりわけ期間限定的な許容との条件付きであることが、これまでの共産党がイエス・オア・ノーとして潔癖性を打ち出し、妥協も許さなかった活動から見ると、とても理解することが出来ない。
志位委員長の腹は、とにかく戦争法案とされる安保関連法案を廃案するためには、何でもやるぞとばかり従来の党是を脇に置いてでもやろうとの意思と受け取れる。妥協を許さない党員は果たしてこの委員長の決断を是とするのだろうか。野党連合を組もうとしている相手の民主党内には、共産党との連携には後ろ向きである。
我々が1960年に安保条約改定反対の旗印の下で安保闘争を戦ったが、その岩盤をしっかり支えてくれたのは日本共産党ではなかったのだろうか。大学にはライシャワー米大使、浅沼稲次郎・日本社会党委員長、自民党から藤山愛一郎外相らに交じって日本共産党から伊井弥四郎氏が来られ、間もなく暗殺された浅沼委員長と伊井氏は、安保改定は絶対阻止しなければいけないと絶叫調で訴えていた。間近にいて彼ら大物のスピーチに圧倒されたものである。
それにしても共産党の現役委員長がよく言うよと言葉もない。確かに最近の共産党は社民党の退潮もあって党勢の伸長が著しい。だが、だからと言ってそれは自分たちの思想や訴えが必ずしも国民の支持を得たというわけではないと思う。それを誤解してなりふり構わず党勢拡大のためのチェンジ・オブ・ペース的なジェスチャーだとしたら、幻滅を感じるだけだ。
実際いくら志位委員長の考えを聞いたところで、こればかりは素直に納得出来るものではない。共産党はこれまで通り腰を据えて、信念を曲げずに是は是、非は非として国民のため、平和のために闘うべきである。
第3次安倍改造内閣の閣僚として閣内へ取り込まれた、原発再稼働反対だった河野太郎・国家公安委員長も変節の人と考えざるを得ないが、就任後記者会見で九州電力川内原発2号機の再稼働についてコメントを求められると、「担当大臣(経済産業大臣)に聞いて欲しい」とさらりとかわして自説を述べることはなかった。共産党も河野大臣と同じ穴の狢でなければ好いがと思っている。
それにしても、あの日本共産党が日米安保条約を容認するとは、思いも寄らないことだった。時代も変わって人物も変わったのだなぁと思うとともに一抹のやりきれなさと不安を感じる。