1980年にヨーロッパへ教員海外派遣団としてご一緒した茨城県の先生方の同窓会「チボリ会」が、28回目を迎えて土浦市内で開催されたので車で出かけた。海野千秀先生を団長とする18名という割合小さな団体だったがまとまりがよく、今日も10名が参加した。いつまでも交流を続けられるのは、その中心に包容力のある海野先生がでんと座っていて、求心力があるからだ。現在も茨城県退職校長会会長として県教育界に多大な影響力を与えておられる。
この派遣団は先生方にとっては南仏マルセイユが初めての学校訪問で、目新しいことばかりで興味津々だったと思うが、個人的にはマルセイユに滞在中ビートルズのジョン・レノンが殺されたニュースが強く印象に残っている。18名の内、すでに2人の先生が鬼籍に入られた。当時参加した担当の文部省佐野紀係長も度々チボリ会員として団の会合に参加してくれる。今回も参加された。宴会も盛り上がった。先生方のカラオケの歌いっぷりには脱帽である。
宴会前に「茨城県霞ヶ浦環境科学センター」を見学した。霞ヶ浦の歴史、考古学、産業史、地形的変化等を視覚と触角で教えてくれる。戦前の予科練とか、風物詩だったわかさぎ漁の帆掛け舟などに比べて、霞ヶ浦自体が今脚光を浴びることはめっきり少なくなった。しかし、これだけの施設を茨城県は運営している。かなり経費もかかるだろう。1995年に皇太子ご夫妻ご臨席の下に土浦市で「第6回世界湖沼会議」が開催され、その折り設置が提唱され2005年に開設された贅沢な施設である。教育施設と言えるものだけに、箱物と簡単に考えるわけにはいかない。近年地方自治体は財政的に厳しい時代に入っているので、県民にも相当広報活動と啓蒙をしなければ理解が得られないのではないか。ほとんどの展示物が地道なものだけに、霞ヶ浦の環境問題に関心がなければ、大人の足を呼び込めるほどのものでもない。学校教育の一環として野外教育は役立つものであるが、教え方に工夫が凝らされないと成果を上げるのは難しいと思う。
展示物の中で、新しい知識も得られた。日経新聞夕刊に「おたふく」という山本一力の小説が連載されているが、その中に気仙沼から江戸へ「ふかひれ」を輸送する話がある。そのルートは単純に太平洋沿岸から房総半島を回って、東京湾から江戸へ輸送されたものとばかり思っていたが、実際には輸送ルートは、利根川から霞ヶ浦を経て、千葉県関宿を経て江戸川を通って江戸へ辿ったらしい。「おたふく」ではどのルートを辿ったとも書かれていないので、定かではないが、こういう海運ルートの存在さえ知らなかった。しかも霞ヶ浦には他にももうひとつ東北地方から江戸へ貨物輸送するルートがあったという。
実際に学校から見学にどれだけの子どもたちがやって来るだろうか。環境問題や霞ヶ浦の生い立ちを調べるためには、間違いなく良い施設である。だが、立地的な利便性が伴わないだけに、大勢の利用者という観点から、今ひとつ訴求力を欠いているように思える。少々もったいない施設であると感じたが、土地の人々はどう思っているだろうか。