政府の東京電力福島第1原発事故調査・検証委員会が、700頁に亘る中間報告書をまとめて昨日野田首相に提出した。専門家や関係者ら延べ456人に対して、900時間に及ぶ聞き取り調査を行った結果をまとめたものである。
「事前の過酷事故対策」「現場の事故対応」「政府の事故対応」「被害拡大防止」の4つのポイントに絞って指摘している。中立的な立場から厳しくかなり的確な指摘がなされたように思う。
新聞の見出しを見ても「国と東電、津波対策不備」「原発冷却でも不備」「起こるべくして起きた」「官邸内の分断深刻」「公表を統制・遅れた局面」「保安院欠けた問題意識」等々かなり辛辣な表現で批判している。
それは今晩NHKの緊急スペシャル番組「謎は解明されたのか?」で委員会の東大名誉教授畑村洋太郎委員長と委員のひとりである作家・柳田邦男氏の話を聞いていてもよく分る。これまでは想定外と考えられると何もやらなかったが、今後想定内は防災を、想定外についてはいかに確率が低くとも減災を考える必要があると言われたことが印象に残った。
今度の事故で、度々言われる「想定外」という言葉が責任逃れのように使われ、東京電力の責任を軽減するかのように伝えられてきた。想定外と言われているが、実際には今度の津波の高さを上回る15.7mの津波の可能性が2008年に提案されながら、それを上回る防潮壁の建設が検討されることはなかった。建屋の爆発の連鎖も食い止められなかった。東電社員が現場で起こっている事態を充分把握できていなかった。原子力のプロと思われる彼らがシステムをよく知らなかった。原発から5㎞地点にあるオフサイトセンター(現地対策本部)もまったく機能しなかった。首相官邸内で本部と現場の意思が統一されていなかった。本部の指令通りに現場責任者は行動しなかった。この他にも数多くの問題点が明らかにされた。それにしても放射性物質という危険物を取り扱う現場で、全員が必ずしも充分な知識を持たずに、管理面で意思統一ができていなかったことなぞ、組織としてはあまりにも杜撰だし、そもそも原発に関わる資格があったのかどうか疑問である。それにしても少々お粗末ではないかと思う。
東電には技術的な知識を持ち合わせていない社員が大分いたようだが、こうなると言葉は悪いが、「気狂いに刃物」ではないか。だから手に負えなくなると無責任にも、1度は何もかも放っぽり出して火事場から逃げ出そうとしたのである。そんな危ない会社が心から反省の言葉を話すわけはなく、その代わりに言い出したのは、先日の一方的な電力料金値上げの申請であり、今日の原子力賠償支援機構への6,000億円資金援助の要請となるのである。
「失敗学」を主唱している畑村事故調査・検証委員長は、管理・監督者の責任を追及するのではなく、津波への備えや非常時の原子炉の冷却で東電に対応の甘さがあったと指摘するに留めた。ただ、今回の巨大津波のように稀にしか起きない自然災害でも「想定外」として無視せずに対処すべきであったと提言した。
今度の事故を見てみると、どうも責任のなすりあいをやっているような節がある。情報管理について縦社会の弱点が曝け出されたことも指摘された。特に事故が起きた時周辺住民の避難指示に役立てるための‘SPEEDI’(緊急時迅速放射能影響予測システム)が折角予測していながら、関係者が情報をたらいまわしにしてその情報が活用されず、重要な情報を無駄にしてしまった。130億円もの大金を注ぎ込んでシステムを開発しながら、肝心要の本番で情報を脇に置いたままだったのである。
当時の枝野幸男・官房長官の会見で度々使われた「直ちに人体への影響が及ぼすものではない」との表現も、影響を心配する必要はないという意味か、或いは長期的には人体に影響があるのか、分りにくかったと問題視している。最終報告書は来年7月に出される。
あれやこれやを考えると、もしこの次同じような規模の大災害が襲って来たら、よほど万全の備えをしないといよいよ「日本沈没」となるのではないかと考えると空恐ろしくなる。